「感想戦」ができない~裁判員裁判の問題点を実感
     今月1日は、第70期将棋名人戦第5局の2日目でした。森内名人が羽生二冠を下し、3勝2敗で名人防衛に王手をかけました。
     将棋の世界では、勝負がついたら「はい、さようなら」ではありません。両対局者と、その対局を控え室で見ていた棋士が、互いの指し手について、「ここはこっちの手が良かったのでは」、「この展開をされると先手は苦しい」、「この手は見落としていた」など、感想と自らの考えの過程を明らかにします。
     これを「感想戦」といい、プロの将棋ではほぼ必ず行われます。
     負けた当事者は悔しさを噛み殺しながら、勝った当事者もはしゃぐことなく、お互いの将棋の向上のために考えを披露していきます。

     思考の過程を明らかにすることは、第三者による検証を許すことで、技術の向上、ひいては業界全体の発展につながるものです。

     司法の世界でも、判決文という形で裁判所の思考過程が公開され、その理屈を検証できます。
     ところが、なぜその結論に至ったのかという理論構成が、十分明らかにされない裁判が登場しました。裁判員裁判です。

     私も先日まで、自身初となる裁判員裁判を担当させていただきました。これまで裁判員制度には賛否の意見がありましたが、自身で経験したことで遅まきながらその問題点を実感することができました。

     私は判決言渡しの間、言葉足らず、説明足らずの判決を聞きながら、首を傾げざるを得ない思いでした。なぜその結論に至るのか、なぜ他方の主張を排斥したのか、全く説明になっていないではないか・・・。
     「○○は信用できない」、「○○と認められる」という結論ありきで、通常の裁判のような説得力のある論理構成が表れないのです。
     裁判員裁判は、一般市民を交えた評議を終えてから判決言渡しまで、短い準備の時間しか取れません。したがって、判決文を通常の裁判同様に時間をかけて丁寧に構成する時間はなく、簡略なものにならざるを得ません。
     評議も時間に制限があり、延長されることは原則として想定されていません。大事な大事なお客様(裁判員)のご都合が最優先です。
     そして何より、裁判員には罰則付きの守秘義務が課せられるため、どのような議論がなされたのかを検証する術は全くありません。

     思考過程について、第三者による検証が十分にできない裁判。このような制度がまかり通ることには恐ろしさを感じます。

     個々の訴訟指揮についても、納得のいかない点がありました。
     
     一つは弁護側冒頭陳述で、不自然な箇所で裁判長から休廷を入れられました。おそらく、冒頭陳述のどこかに疑義を感じ、裁判官どうしでの評議をするために入れたのだと思います。結局、休廷後に何も指摘されることなく冒頭陳述を続けられましたが、主張が分断されたことで初頭効果を与えられなくなり、印象が弱まることとなりました。
     相撲やプロ野球であれば、進行を中断して審判団が評議をすれば、その内容を明らかにします。娯楽であるスポーツですらそうなのですから、人生を左右する裁判においては、なおのこと高度の説明義務が求められるはずです。それとも、素人に余計な説明などいらない、由らしむべし知らしむべからずの考えで、裁判員制度の「市民参加」のお題目はどうでもいいということでしょうか。
     この不自然な休廷についても、一方当事者に不利益を与えるものである以上、裁判所は理由の説明をすべきだったと思います。

     また、検察官が起訴されていない余罪について尋問で触れたため、関連性なしの異議を出しましたが、裁判所は異議を棄却しました。この判断自体どうかと思うのですが、職業裁判官(プロの裁判官)は、裁判員に対し、余罪を処罰する趣旨で考慮してはいけないルールは説明したのでしょうか。この点も検証できません。
     職業裁判官が、素人裁判員に対し、きちんと法律の考え方、基本的なルールを説明したのかどうか。プロの裁判官のみの裁判であれば当然信頼できますが、これは一般市民も参加する裁判です。もし素人裁判員が誤解をしたままであったとしたら・・・。


     そもそも誰が何のために導入したのかもよく分からない裁判員制度ですが、数々の問題点があることだけはよく分かりました。


     なお、私の初めての裁判員裁判は、刑事弁護の分野でおそらく東北最強を誇る、阿部泰雄先生に相弁護人を引き受けて頂きました。事件の全体像の捉え方、記録の読み込み方、被告人への対応等々、本当に勉強になることばかりでした。
     心より御礼申し上げます。
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