「おそれ」を言い出したらキリがない
     最近、ひさびさに当番弁護から刑事事件を受任しました。最高刑でも懲役6月、罰金刑すらあるという軽い罪状で、被疑者国選の対象にもならない事件ですが、被疑者が逮捕・勾留された案件です。

     被疑者国選の対象外の事件では、日弁連が刑事被疑者委託援助制度ってのをやってまして、国家予算ではなく日弁連の手弁当で弁護人を付けられます(ただし資力がある人は立替えられた費用を返還する)。

     さて、勾留の要件は、罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれ(刑事訴訟法60条1項2号3号)。
     この「おそれ」というものがくせ者です。「おそれ」を言い出したら、いくらでも拡大解釈ができてしまう。

     罪証隠滅のおそれ。たとえば、関係者に会って偽証を頼む「おそれ」を言い出したら、誰だって「おそれ」があるかもしれません。
     逃亡の「おそれ」。そりゃ、先日仙台中央警察署から逃げ出した自称ドイツ人だってアテもなく逃亡したのですから、どんな人でも無茶な考えで逃げる「おそれ」はないとは言えない。

     刑事訴訟法の教科書では、「おそれ」は具体的なものじゃないといけないとは書いてありますが、実務上は割と簡単に勾留決定がなされてしまいます。

     私は被疑者と数回接見し、被疑者が反省する態度を見て、「こんな軽微な事件で勾留しなくても」と正直思いました。勾留というのは、これまでの生活空間、人間関係からの断絶です。有罪判決が出る前に刑罰を科すようなものです。そんな簡単に認められるのはおかしい。
     なるほど、自白している事件ならば、頭を冷やすための反省の時間を与えることは有意義かもしれません。しかしそれは勾留という制度の目的ではないはず。

     被害者の方と面談しお話しをうかがいましたが、加害者を許しており、裁判にかけられることは望まないとの上申書も書いていただきました。
     加害者の謝罪文に誓約書、被害者の上申書を付けて、金曜日の午後1時ころに準抗告を申し立てたのですが、同日の午後6時半に残念ながら棄却の連絡を受けました。
     それでもなお、罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれがあるんだそうです。毎度の如く、どの証拠からその結論に至ったかの具体的な説明はなし。

     これはまったく個人的な感想なのですが、どうも金曜日に勾留準抗告や保釈請求をすると、認容率が低いように思えます。12月といえば、裁判所には新しい修習生が来て歓迎会に忘年会もありますね。おや、この間の金曜日ってひょっとしたら国家公務員の給料日でしたか。それはそれは、残業のお手間をおかけしました・・・。

     なおその後、勾留中の被疑者から葉書が届きまして、裁判所と戦ってくれてありがとうとの感謝の言葉をいただきました。勾留に対する準抗告の効果として、たとえ失敗に終わったとしても戦ってくれた弁護人に対する信頼感が生まれ、孤立感を和らげることがあると聞いたことがあります。こういうことかと思いました。


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     話は変わりますが、秘密保護法案にも「おそれ」という言葉が出てきます。

     行政機関の長は、・・・その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与える「おそれ」があるため、特に秘匿することが必要であるものを特定秘密として指定するものとする。

     特定秘密の取扱いの業務を行うことができる者は、(3)の適性評価により特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らす「おそれ」がないと認められた行政機関の職員・・・に限るものとする。

     ・・・我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす「おそれ」がないと認めたとき・・・に限り、特定秘密を提供することができるものとする。



     現行の国家公務員法その他諸法令でも対処できる「国家機密が漏れるおそれ」と、法律が拡大解釈されて言論が不自由になったり、これ幸いと政治家・お役人が国民に知らせたくない情報を隠すなど「国民が不利益を受けるおそれ」を天秤にかけて判断する話でしょうが、私は後者のおそれの方が蓋然性がより高いものだと思います。

     「漏れるおそれ」で思い出しましたが、福島原発の汚染水は「おそれ」どころか現実に漏れ続けています。こういう原発に関する情報も、テロリストに狙われるおそれがあるので、これからは非公開となるかもしれません。
     しかし、国民の生命・身体・健康に関わる情報まで隠して、守るべき利益とは何なのか。

     もっと議論が必要な問題ではなかったでしょうか。そんなに立法を急いで、何を「おそれ」ているのか。

     「おそれ」という言葉が、思考を停止させるマジックワードになっていませんか?
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