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    岡口基一『要件事実入門』が売ってないので別の要件事実本を読んでみた
     最近、『要件事実マニュアル』で知られる岡口基一判事が『要件事実入門』を出版されたとのことで、首都圏の弁護士やロースクール生による露骨なステマ絶賛のレビューをよく見かけます。
     
     しかしながら、まだ当地仙台の書店では見かけなかったので、その代わりにこんな本を取り上げてみることにしました。


    なにわの司法書士早山俊介の事件ファイルなにわの司法書士早山俊介の事件ファイル
    (2010/03)
    庵谷 恭三

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     要件事実について、とんでもない間違いが平気で書いてあるという点で(あるいは、司法書士業界にもう一つの要件事実論があったというべきか)、実に驚くべき内容でした。

     本書は、司法書士でありながら30数年に余り訴訟業務を手がけてきた著者が、司法書士に対する研修会で使った訴訟記録を推理小説の形に手直ししたもの。
     「本書を読んでいただければ、弁護士でなくても、司法書士でなくても、誰もが、たとえ手さぐりであっても、本人訴訟ができるのだとの自信を持っていただけるものと確信しています。」(はしがき)という言葉の端々から、著者の自信のほどが読み取れるところ。

     しかし残念ながら、著者の目論見は達成できたとはいえません。

     この本のひどい点その1。要件事実が間違いだらけ。
     本書は、主人公である司法書士の早山が様々な事件を依頼され、訴状や答弁書を作成していくというストーリーです。各章末のコラムでは事件ごとに要件事実を整理しているのですが、貸金返還請求で「弁済期日未到来の抗弁」(111頁、345頁)や、売買代金請求で「(2)売主Xの再抗弁 (A)弁済の抗弁に対して 弁済の事実がない。」(385頁)などと、トンチンカンな記述に出くわします。

     さらに極めつけは、これ(353頁)。
    mukendairi.jpg
     伝説の「無権代理の抗弁」が登場しました! (ついでに言うとそのすぐ下、「(B)Yからの代理権消滅の抗弁」の①は不要であり誤り)
     「無権代理の抗弁」というのは、いわば要件事実の世界での一発ギャグのようなものです。一般の方にも分かるように言うと、これは科学論文に「S●AP細胞はありまぁす。はっけん!」などと書かれているようなものであり、もう聞いただけで失笑間違いなし。これを堂々と掲載する文献に出会えたことは奇跡です。

     しかし、なぜこんな間違いだらけなのか。

     本書154頁以下には、「抗弁の繰り返しとなった事例」と題するコラムがあるのですが、内容はというとE、R、D、T・・・と続いていった事案ではなく、何度も準備書面の応酬があっただけの事案。
     「抗弁」とは請求原因事実と両立しつつ、その法律効果を排斥する別個の事実をいうものですが、どうやら著者は、「抗弁」の意味を単なる「反論」のことと誤解しているようなのです。

     このような理解の方が、司法書士会で訴訟実務研修の講師を務めてたというのですから、何というか・・・。

     その他にも要件事実の誤りはいくつかあり、私が気づいたものでは
    ・173頁 再抗弁の1「瑕疵は存在しない」は、再抗弁ではない
    ・372頁 (2)(B)賃貸人Xの再抗弁「承諾の事実はない」は、同じく再抗弁ではない
    ・346~347頁
     「(H)確定期限未到来の抗弁」、「(I)不確定期限の抗弁」などというものはない
     「(K)錯誤の抗弁」で③無効の主張は不要
     「(4)Xの再抗弁」で、(A)①本旨弁済でないこと②当該債権と無関係の弁済であることは再抗弁ではない
    など。この他にもあるかもしれません。

     また、保証債務履行請求の請求原因に、①元本債権の発生原因事実と②保証契約の締結しか挙げられていません(359頁)。
     ここでは、平成17年4月1日以降の保証契約であれば、③保証が書面or電磁的記録をもってなされたこと(民法446条2項、3項)を挙げなくてはならないことを指摘する必要があるでしょう。
     ただし、本書での具体的記載例では平成14年に保証契約が成立となっているので、確かにその場合は①②だけで足りるのですが、本書は平成22年の刊行ですから上記③に触れないのは片手落ちでしょう。

     ひどい点その2。懲戒待ったなしの倫理違反。
     第3話で、広瀬雅美から貸金返還請求訴訟の相談を受けた主人公の司法書士・早山。
     雅美は返還請求を受けた側で、不倫相手の会社社長・海浦から小遣いとしてもらった300万円を返せと迫られている。雅美の夫・一郎は税理士で、海浦社長の顧問を務めていることをきっかけに交際が始まった。雅美は、海浦社長に撮られた裸の写真をもとに脅され、小遣いの300万円を借りたものとする借用書を事後的に書かされたのだった。
     早山は、答弁書の作成を受任した。

     その次の第4話。早山は、海浦社長の顧問税理士・広瀬一郎が原告となっている建物明渡訴訟で、被告・田植加代からの相談を受ける。
     原告が雅美の夫であることを知るやいなや、田植との間でこのようなやりとりがなされる。

      「広瀬雅美さんという方のことをご存じですか」
      「はい、知っています」
      「広瀬雅美さんが、海浦社長と不倫関係にあることを聞いていますか」


     司法書士の世界には守秘義務はないんかい! と突っ込まざるを得ません。これはひどいぞ。
     ところが別のページでは、早山は司法書士の守秘義務について説明し、「どんな秘密も、この引き締まったお腹からは出られません」(321頁)などとぬかします。
     どの口が言うかな。

     そもそも、既に受けた事件の依頼者の配偶者が、別事件で相手方になっていると知った時点で、話を打ち切るべきではないですかね。この点は早山も考えてはいるのですが、夫婦関係が破綻しているからいいのだ、と自分を納得させて事件を受任しています。でも、夫婦関係が破綻しているかどうかは線引きが難しいですし、やはり信頼関係を害するとして問題ではないでしょうか。

     この他、主人公は権利濫用が明白な1㎡の土地の明渡請求事件で原告の依頼を受けていますが(第2話)、これも倫理的にどうなんだろうと言う気がします。
     小説とは言え、倫理スレスレの、グレーゾーンの依頼をなぜ主人公はホイホイ受けてしまうのか。金なのか。

     ちなみに物語のプロローグでは、依頼者の意向を最優先にし、老夫婦を建物から立ち退かせたある弁護士の事例を取り上げ、「しかし、家主から頼まれて、このような極限までのことをしなくてはならなかったのは、結局、お金に対する執着なのだ。俊介はこのような法律家にはなりたくないと思う。」(4頁)などと主人公は思っています。
     どの口が言うかな。

     ひどい点その3。推理小説としてもひどい。
     ネタバレは避けたいと思いますが、本書を推理小説として見た場合の最大の謎は、銀行強盗の所持していた猟銃はどこに消えたのかという点です。なぜこんな本が世に出たのかも謎ですけどね。

     なお銀行強盗事件の発生当時、銀行の応接室では不動産売買の代金決済と登記のやりとりがなされていました。その場になぜか当事者の一人がゴルフのキャディーバッグを持ち込んでいましたが読むときには気にしちゃダメです。

     純粋に小説としても、当事者の会話が平たく続いて、しかも大阪弁のつまらない掛け合い漫才を活字で読まされることから、苦痛で仕方ありませんでした。
     『要件事実入門』が買えなかったからといって、間違っても代わりにこの本で勉強しようなんて考えたらいけませんよ。まだ読んでませんが、たぶん『要件事実入門』の方が絶対にいいはず。
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