倫理研修(刑事事件編)
     年末で、いろいろな資料を断捨離しています。
     先月の倫理研修でいただいた資料も、力作ですがたぶん読み返すことはないので処分。

     そこで処分前に、刑事事件編の問題も皆さんの参考になるかと思い、備忘も兼ねて書いておくことにします。
     このブログを見に来た方も、ひょっとしたらいつか依頼する側になるかもしれないですし。

    【設問】
     A弁護士は、詐欺グループ10数名が逮捕された事案の被疑者の1人であるBの当番弁護士として、接見を行った。Bは金がないので私選弁護は依頼できないが、Aに頼みたいと申し入れた。そこでA弁護士は、裁判所に対し国選弁護人として選任するよう求め、選任された。
     その後、A弁護士はBの親族と面談し、国選弁護人制度の説明・報酬の支払われ方を一通りした際に、Bの親族から「そんな金額では、先生にきちんと活動してもらえないでしょう。必要な金額を言ってください。自分がお金を払うから私選弁護人になってください。」との申し入れを受けた。
     A弁護士は、どのように対処すべきか。 また、上記Bの発言が、現状逮捕されていない詐欺グループのリーダーと疑われる人物Cからのものであった場合はどうか。  (簡略化して改題)

     まず、一般の方があまり知らないであろう話ですが、この問題のバックグランドとして、
       ・国選弁護の報酬額の定めが、私選弁護の一般的な基準よりかなり低く定められており、割に合わないこと(赤字覚悟)
       ・国選であれ私選であれ、最善の弁護活動をする努力義務があること(職務基本規程46条)
       ・いったん国選弁護人になった弁護士からは、私選弁護に切り替えるよう求めることができないこと(職務基本規程49条1項)
    を踏まえる必要があります。
     
     そこで、「私選弁護人になってください」という申し出は、弁護士にとっては「正規料金」、「定価」を払ってくれることを意味するものである一方、ホイホイ飛びつくと危険なこともあるので、そこに気をつけましょうというのが出題の趣旨なんですね。
     
     この設問ですと、落とし穴の1つ目が、前記の「私選切替え働きかけの禁止」規定。露骨な働きかけのみならず、私選の方が「よく働いてくれそう」をしそうと思わせるニュアンスの発言をすることも危ないとされています。
     よくある質問で、「国選と私選では違いますか?」と聞かれたりするのですが、私としては「どちらも最善を尽くす」という説明しかしません。余計な言葉を足すとまずい。
     ただ、もし私がえん罪などで捕まることがあったら、あの先生に私選で頼みたいと心に決めている人はいます。うちのボスには頼まない(笑)

     落とし穴2つ目、将来的な利益相反がありうること。
     「詐欺グループのリーダーと疑われる人物C」が金を出す私選弁護では、Cが将来逮捕されて、当初から受けている被疑者Aと食い違う主張をした場合、主張の異なる両者の弁護ができなくなるおそれがある。そこで、Cの私選弁護の申し出は安易に乗るべきではないと思われる。
     そもそも常識的に、あやしい人から金を出すよと言われて飲めるものじゃないですが…

     落とし穴3つ目、金を出す者の指図を必ずしも受けないことを説明すべき。
     被疑者本人のために最善の弁護活動をする以上、金を出した者(ここではC)の求める弁護方針が被疑者(ここではA)にとって最善ではない場合には、これに拘束されず弁護人が自由に弁護方針を決定することを予め説明すること。
     このような説明が、将来のいらぬトラブル防止のために必要とされます。「なんだ、金を出しているのは俺だぞ。Aに自分が全部やったと認めさせろ」みたいなことを言われないように。

     以上が、依頼を受ける弁護士側で気をつけないといけない主な点になります。

     
     数年に一度、このような倫理研修に必ず出席することがすべての弁護士に義務づけられています。
     参考になりましたでしょうか?

     弁護士というと、東京の某法律事務所の下品な漫画と情報弱者につけこんだ高額な料金設定などのせいで、ぼったくって犯罪をもみ消すようなイメージを広められていますが、大多数の弁護士は倫理規程を踏まえて適切な弁護活動をしていること、ハッキリ言って稼げる仕事ではないことをご理解いただければと思います。

     それにしても、刑事事件における弁護士倫理には本当に落とし穴だらけですね。度が過ぎる示談交渉をして懲戒された人もいましたし。

     なんとなくですが、最近若手弁護士を中心に「刑事弁護地雷観」が広まっているのではないかという印象を持っています。方針や依頼者等への対応などをちょっと間違えただけで懲戒請求されてしまうのではないかという恐怖感から、トラブルにならないよう余計な活動は何もせず、被疑者国選でそれなりに接見回数をこなしとけばいいや、という傾向があるんじゃないかと。
     杞憂だといいのですが。
     
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