課金ガチャ問題、23条照会の次の一手を考える
     「ゲームへの課金」で思い出したのですが、高校生のころゲームセンターでやった麻雀で、安い手で連勝してあと1つ上がれば…というところで対戦相手の女の子に天和で上がられゲームオーバーになったことがありました。あれが当時問題にならなかったのはなぜだろう? 

     さて、某テレビ局の取材スタッフから問い合わせがあったりと思わぬ反響があったので、もう少しだけ課金ガチャ問題について考えてみたいと思います。

     先日のブログでは、「23条照会をやったとしても回答拒否をされる可能性が高い。回答拒否への損害賠償も取れるかどうか。取れたとしても賠償額で訴訟費用をペイできるかどうか」と考えましたが、そこから次の一手はないものでしょうか。

     まず他力本願な考えですが、警察または検事立件で検察庁が動いてくれたら、ガチャに関する証拠を確実に押さえてくれそうです。
     しかし、捜査機関が景品表示法違反を立件し、ゲーム会社に対して捜索・差押をすることは、現状では考えにくいかと思います。
     今後どれだけ社会問題化するかにもよるでしょうが、ネット上の報告事例だけでは犯罪の嫌疑が不十分であり、裁判所としても強制捜査を許可する令状を出さない可能性が高いと考えます。
     まず消費者庁が動いて、それで実態の解明が進み、悪質な業者が残っていたらようやく捜査機関という順番でしょうね。

     次に、自力でなんとかするならば、23条照会以外の手段として、
      (1の1) 訴え提起前の照会(民事訴訟法132条の2)
      (1の2) 訴え提起前の証拠収集処分(同法132条の4)
      (2) 訴え提起前の証拠保全(同法234条、235条2項)
    あたりが思いつくところです。

    (1の1)訴え提起前の照会は、民事訴訟を提起する前に、「お前の会社を訴えてやる」(本当はもっと丁寧な表現)という予告通知を叩きつけ、その訴える予定の相手方に対して、訴訟で主張立証に必要な事項を書面で問い合わせができるというもの。相手方は、免除事由がある場合を除き、回答義務を負います。

     これに相手方が回答拒否した場合、直接の制裁手段はありません。ただし、その後に控える裁判で、相手方(被告)の態度を弁論の全趣旨(同法247条)として裁判所が事実認定の材料にします。裁判官は、主張・証拠のみならず、当事者の訴訟上の態度なども含め、自由な心証で判断できるとされています。
     つまり、法律上答える義務があるのに拒否する態度を取るなら、裁判官は原告・ユーザー側の主張が正しいと考えますよ、ということ。
     事実上、回答しなきゃならないという圧力はかけられそうです。

     ところが、免除事由に「営業秘密」(同法132条の2第1項第3号)があるため、もし課金ガチャのレアキャラの出現確率などがこれに当たるのであれば、相手方は回答義務を負わないことになります。
     また、この制度は提訴予告通知が要件とされるため、いわば「宣戦布告」がされることで記録が消されたり改ざんされるおそれも否定できないところです。

     うーん、この手段ではダメか。次いってみよう。

    (1の2)訴え提起前の証拠収集処分は、これも予告通知を出して、その上で「立証に必要であることが明らかな証拠」で、「申立人がこれを自ら収集することが困難であると認められるとき」には、文書の送付嘱託(文書を出してくださいという裁判所からのお願い)や執行官による現況調査など、様々な証拠収集の処分ができるというもの。

     しかし、この手続きにはもう一つ要件がありまして、「その収集に要すべき時間又は嘱託を受けるべき者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは」、この手続きが使えません。
     そうすると、証拠収集に長時間がかかることが想定される場合や、相手方が協力拒否の態度を明確にしている場合は、相当性を欠くとして裁判所がコーサインを出さない可能性が高いでしょう。

     また、この制度も直接の制裁手段がなく、事前の提訴予告通知が必要という点では前記(1の1)と同様で、この欠点があるため我々の実務でもこの手続きをやったという話はほとんど聞きません。
     法律が性善説すぎるというか、証拠を出す義務を負わせるのに消極的というか。

     では、事前に相手に準備させる時間を与えずに動ける手段はないかというと、前記(2)訴え提起前の証拠保全が思い当たります。
     これは、裁判の中での証拠調べ手続きに入ることを待っていては、証拠調べが不能や困難になる事情がある場合に、あらかじめ裁判官がその証拠を見てしまおうという手段です。

     利用される場面としては、例えば医療過誤訴訟で、医療ミスをしたか否かが争われている病院側がカルテを改ざんしないように、裁判前からあらかじめカルテを押さえて裁判官に検証してもらうときなどがあります。
     これならどうでしょうか。

     この手続きでもっとも高いハードルが、「保全の必要性」です。つまり、クソ忙しい裁判官様に現場までお出ましいただくには、そうしないと証拠が消されるおそれがあるんです、他の手段じゃダメなんです、という点を説得しないといけません。

     この説得がうまくいくかどうか。裁判官が課金ガチャの問題に詳しいとは思えないので、十分な疎明資料、つまり説得するだけの材料を用意する必要があるでしょう。ここでは弁護士選びが大事になってくると思います。景表法違反の弁護士広告に釣られるような情報弱者は、ここでも痛い目に遭うことになると思います。

     では、首尾良く証拠保全の決定が出て、裁判官がゲーム会社に赴いたとして、その後はどうなるかも考えてみましょう。

     証拠保全については、ゲーム会社に対して事前の予告はなく、決行当日いきなり裁判官や執行官がやってきます。
     ここでゲーム会社としては、やはり徹底抗戦することが考えられます。ここでも、協力の拒否に対する直接の制裁手段はありません。(もちろん裁判官をボコボコにすれば犯罪であり別の制裁がありますが)

     社員が裁判官を前にして、「ここにはサーバーがないので何ともできない」とか、「担当者が不在で対応できない」とか、「ワタシ ニホンゴ ワカリマセーン」などと答え、非協力的な態度で裁判官を怒らせる事態もあり得るところです。
     それでもいくら社員が協力を拒もうが、執行官らが何時間もかけてコンピュータのデータやガチャの確率に関する資料をコピーすることになるでしょう。

     しかし、証拠保全でも目当ての資料が出てこず、ユーザー側が手持ち証拠不十分のままで訴訟を起こしたらどうなるでしょうか。

     原告・ユーザーとしては、訴訟提起後には被告・ゲーム会社に対し、文書提出命令(同法221条)を申し立てることになると思います。

     これに従わない場合には強烈な制裁があり、「当該文書の記載内容に関する相手方の主張を真実と認めることができる」(同法224条1項。真実擬制)とされています。
     つまり、例えば原告が「レアキャラの当選確率は0.1%以下に設定すると記載した文書があった」とか、「被告にはガチャの確率は都合のいいように変動させることを記載した文書があった」と主張していた場合は、「そのような記載のある文書をゲーム会社が作成していた」ということを前提にして、裁判官が判決を書くことができます。そうなれば、原告の勝訴の見込みは高いでしょう。

     しかし、もし被告・ゲーム会社がガチャの確率について改ざんしたニセの証拠を提出して、「たまたま原告だけが運が悪く当たらなかったのでしょう」などと主張したら…。

     その場合は、先行する証拠保全手続きで資料を任意に提出しなかったゲーム会社の態度も斟酌して、裁判所としては弁論の全趣旨から、原告・ユーザー側を一部か全部勝たせる可能性が高いのではないかと考えます。


     以上をまとめると、いろんな法的手段の合わせ技で行けないこともなさそうだ、というところですね。
     こういう事件を受けたらこの分野の開拓者になれる可能性はあるでしょうが、私は今ちょっと忙しいので、この程度の考察だけでカンベン願います。

     もし頼むとしたら? そうですね、景表法も関わってくる問題ですから、それに違反した法律事務所だけはやめておいた方が…。
     実際問題として、消費者問題に詳しい弁護士で、若手から中堅くらいの人がお勧めです。

     しかしよく考えてみれば、ネットで「●●に強い弁護士」などと自称している人も、その表記や実力を裏付ける専門制度などは存在しないので、一般の方が弁護士会の法律相談センターなどで弁護士を探すことも一種の課金ガチャなのかもしれません。
     
     自分もいつか「レア」と呼ばれるくらいになりたいなあ。でも教祖的な扱いは困る。


    ※ なお、ガチャの問題を把握するにあたり、山本一郎さんのブログを参考にさせていただきました。

    関連記事
    Copyright © 匠の弁護. all rights reserved.
    Design by Pixel映画山脈