届かなくても、「おめでとう」を
     かつてロースクールで一緒に答案練習をした同輩が、弁護士登録をしたとの報に接しました。彼と私ともう一人で組んで、不思議かつ不幸にも彼だけが合格できずにいたので、朗報だと思いました。

     「答案練習」(とうれん、と略すのが一般的)とは、論文式の問題を用意して、本番さながらに制限時間を定めて書き上げる司法試験のトレーニングのことです。複数人で組むか、予備校に通って行うのが一般的です。
     互いに答案を批評し合ったり、教員や合格者に答案を見てもらうことで、自分に足りない点(知識量、論理力、事案の分析力など)が何かを突きつけられるという、心がしんどいトレーニングです。これを乗り越えられないと合格はありません。
     3人で組んでやっていたときは、たいてい知識量と気力で劣る私が一番答案が短く、知識量のすぐれたNさんが最も長く答案を書いていました。
     ただし、答案が長ければ評価が高いという訳ではないのが司法試験の難しさで、事案に即した内容が書いていなければ得点が付かなかったり、むしろマイナスになることもあります。

     私の答案のスタイルは、「合格ラインを超えるには長い御託は要らない。回答とそこに至るための条文と判例の理屈をちょこっと書いて、事案を当てはめればいい。裁判所から相手にされない学者の有力説なんか一切無視」という、省エネ投法で7回3失点を目指すやり方でした(定期試験ではおしなべて評価が低く、とある学者教員からは「お前が合格するとは思わなかったよ」と言われました。司法試験と学者の求める物が違うことに気づいていて本当に良かったと思います。)

     対して彼は、さながら9回完封2ケタ奪三振を目指し、初回の立ち上がりから慎重で、どんな問題でも導入部からガッチリと論述してくるスタイルでした。
     決して彼は間違った論述は書かないのですが、現行の司法試験では事案分析力も重視されるため、持てる知識をいくら展開しても事案の解決にどうつながるかという記述が手厚くないと点数が伸びません。そのために苦戦を強いられたのではないかと思います。

     また、現行の司法試験制度には受験回数の制限があり、私の頃は法科大学院の修了後5年以内に3回の不合格で受験資格を失うこととされていました。
     とすると、彼は他の法科大学院に進み、再度受験資格を得て合格を果たされたのでしょう。苦労をされたことと思います。

     彼の出身校・経歴をネットで見たところ、ともに通った法科大学院の名前はなく、入り直したのであろう別の法科大学院の名前がありました。あるいは、かつての苦杯は忘れ去りたい過去なのかもしれません。
     経歴から消えた学校の同級生から連絡を取っていいものかどうか。どうにも分からないので直接のメッセージは遠慮しますが、もし届かなくてもここで「おめでとう」の言葉を述べたいと思います。

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