民事信託は救世主にはならない
     11月4日(日)、宮城県建設会館で行われた民事信託の研修会に参加してきました。

     (一社)民事信託推進センターと(一社)民事信託士協会の共催によるもので、「民事信託士」という資格の登録更新のための指定研修を兼ねていたそうです。
     私自身は同資格を有しているわけではないのですが(もう有象無象の相続関係の民間資格はコリゴリです。いくつ取ろうが何の役にも立たない)、相続関係のご相談を受ける際に「『民事信託』・『家族信託』って制度があるそうじゃないか、使えないの?」と聞かれることもあり、正確にお答えするために勉強を続けているところです。
     今年になってからは信託監督人を1件引き受けたこともあり、より集中的に勉強するようになりました。

     ただ、民事信託は言われているほど素晴らしい制度なのか? 素晴らしいとしても、ハッキリ言って広まらないのでは? と私としては懐疑的な目を向けてしまいます。
     
     一般的には、遺言や任意代理・任意後見など従来の制度では実現できなかった後継ぎ相続、財産管理・処分、さらには節税策などのメリットがあると説明されています。弁護士の業界も司法書士業界に遅れを取りながらも、日弁連信託センターを立ち上げ、普及用のリーフレットを作成したようです(今日現在、日弁連の会員専用ページ内で確認。なぜ一般向けページに置かないのか)。

     しかし、私としては以下の点をクリアできない限り、民事信託は普及することなく、また法律の専門家サイドのビジネス・業務として確立し難いのではないかと思っています。
     
    問題点(1)入り口の費用が高くなること。
     民事信託は、税金の問題とは切っても切れない関係があり、税理士の助言が必要になる場面が表れてきます。そして不動産があれば信託登記の点も問題となり、複雑な信託契約の内容をチェックするには弁護士が関わることになると思います。
     つまり、一つの民事信託を構成するためには、複数の士業の分野を横断的に検討する必要があるため、どの士業であろうと、ひとりだけで作れるものではないと考えます。
     複数の専門家による検討を経るのであれば、単なる契約書作成とは異なり、相応の費用をご負担いただくことになるだろうと思われます。

     ちなみに昨日の研修会の最後に、『新しい家族信託』などの著者である遠藤英嗣弁護士が紹介していたのですが、司法書士が作成した民事信託が公序良俗違反で無効になった判例があるとのことです(どうも公刊物未搭載らしい。「闇に葬られている」との表現が印象的でした)。
     私自身も、民事信託に関する本は4,5冊程度読んでいますが、「この条項はマズいだろ」と思われるサンプル契約書も確かに見かけたところです。民事信託は「コピペ」だけで何とかなるものではない、非常に高度な業務だと思います。
     ですので、はやりに乗った感じで「民事信託をやります」とサイトで堂々うたっている方を見ると、「お、おう」とつぶやいてしまいます。ならばこちらは、欠陥住宅ならぬ欠陥信託を争うことを業務としようかな・・・

    問題点(2)委託者が高齢の場合などで、意思能力や錯誤の問題が生じうること。
     つまり、「こんな複雑な遺言、ボケ始めていた爺さんが理解できたハズがない。書かされた遺言だ!」という「遺言能力の有無」の争いと同様の問題などが生じるのではないか。
     民事信託は枠組みがなかなか難しいものですから、「財産を託した人は本当に理解して契約したんですか? 契約書だけ用意してハンコをつかせたんじゃないですか?」という争いがかなりの数で生じるのではないかが懸念されます。
     対策として、民事信託に関する理解度をどのように証拠化しておくか。長谷川式スケールや医師の診断書だけで、複雑な契約を理解していた証拠になるのか。どうなんでしょうね。
    (余談ですが、意思能力は改正民法では3条の2で明文化されます)

    問題点(3)節税策は、国が法改正などで必ず抜け道を防ぐ対抗策を取ってくること。
     ある民事信託の方法が節税になるとして提案され、実行に移した。ところが数年後に法改正がされ、予定どおりに節税できなくなったら。思わぬ重税で信託財産で賄えなくなったら。「こんなことなら、高い費用を払って民事信託なんかせずに、遺言や生前贈与で対処していれば十分だった」という例が出てこないか。
     ある知り合いの相続コンサルタントは、事後的に節税の抜け道が塞がれることを「国による後出しジャンケン」に例えており、うまいことを言うものだと感心しました。
     節税を前面に打ち出して民事信託を勧めると、このようなリスクもあるかもしれません。

     この日の研修会は実に充実した内容だったのですが、勉強すればするほど上記の疑問点が膨らみ、民事信託をビジネスとして確立するのは難しいという心証が固まってきたところです。

     民事信託の普及には司法書士業界の取り組みが進んでおり、この研修では司法書士が中心となって信託会社を設立しようという計画まで紹介されていました。
     これのどこにニーズがあるかというと、民事信託の受託者を「業として」引き受けるには信託会社としての登録が必要であり、弁護士や司法書士は「受託者」を何件も引き受けることはまずできません。1件でも「反復継続」と見られたらアウトです(民事信託の普及を阻害する問題点(4))。
     そこで、家族・知人などに受託者候補がいない場合は民事信託を見送らざるを得ないケースもあるのですが、そこを司法書士が作る信託会社がカバーして受託者になろうというものです。
     実際の受託者としての業務は、この信託会社に雇用された民事信託士が行うようです。そうなると今後の民事信託関係の仕事は、信託会社に囲い込まれるようになるのかな、と。

     こうなるとたとえ民事信託が思惑通り普及しても、部外者にはお声がけの機会はなさそうです。
     ただ、そもそも普及しないと思うんですけどね。人はよく分からないものに手を出さないものですから。

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