プレスター・ジョンの国
     中世ヨーロッパの世界では、プレスター・ジョン(英語読み。ポルトガル語読みでプレステ・ジョアン)という王が治めるキリスト教国が世界のどこかにあると信じられていました。
     この話は、十字軍が苦戦する中、東方にある伝説のキリスト教国が援軍を差し伸べてくれるはずだという願望から、広く信じられるようになったと言われています。

     当初、その国はアジアにあると考えられており、一時期はチンギス・ハン率いるモンゴル帝国がそれだとされたものの、東欧遠征があったためそれが間違いだったことが判明します。
     その後、アフリカのエチオピアが「プレスター・ジョンの国」であるとする説が有力となり、大航海時代にはエンリケ航海王子をはじめ多くの冒険家がこの国を探し求めました。この時代の人々は、その国に行けば、巨万の富を手にすることができると本気で信じていたのです。

     時代が下り、アメリカ大陸を始め完全な世界地図が完成する頃には、地球上のどこを探してもそんな国はないことが明らかになり、やがて「プレスター・ジョンの国」の存在は人々の記憶から消えていきました。
     

     時は現代日本、大弁護士時代。
     数多の冒険家ならぬ弁護士が、司法改革という名の荒海へと出航していきます。しかし、大航海時代と違うのは、「弁護士の潜在的需要」という「プレスター・ジョンの国」が実在しないだろうということが共通認識となっている点です。
     
     若い航海士は、新たな航路から新たな大陸を探し求めていかなければなりません。しかし、1年間に短縮された司法修習やロースクールの座学程度では、荒海を渡る操船技術が危ういのではないか。新人船長1名だけの船も珍しくはなくなりましたが、次の港に着くまで補給は持つのか。老航海士たちからは不安の声も聞こえてきます。

     かつて存在した「過払い」という名の金脈は、発見されて数年で掘り尽くされてしまいました。
     「バーを経営しながら客の相談を受ける」という新航路を目指した若者は、思わぬ逆風を受け撤退していきました。どれだけ事件があるか分からない、縁もゆかりもない土地を目指した若者が、いつの間にか消息を絶ってしまうこともありました。
     機関誌『自由と正義』の登録取消し欄を見れば、海の藻屑と消えていったと思われる航海士たちの名前が並んでいます。

     今なおごく一部に、巨万の富が存在する国があるはずだと言って憚らない人がいます。
     しかしながら、「弁護士の潜在的需要」という「プレスター・ジョンの国」は、たとえ各方面へ弁護士が行き渡ったとしてもなお発見されないまま、忘れ去られていくことでしょう。
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