東北新幹線の聖フランチェスコ
     こんにちは、弁護士の村上匠です。
     
     いわゆる三面記事のB級ニュースなのに、なぜか忘れられない事件があります。
     これは私が手がけた刑事事件という訳ではなく、ネット上で目にしただけのニュースなのですが、今年1月、東北新幹線の車内で全裸になった男性が、公然わいせつの容疑で逮捕されるという事件がありました。

     被疑者が述べた犯行の動機は、驚くべきものでした。決して露出狂の趣味があった訳ではなく、電車を乗り間違えた自分のふがいなさを腹立たしく思って、服を脱いだというのです。敷衍すると、自分が着ていた服は親が買ったものだから、捨てないといつまでも親から自立できないと思ったというのです。

     この動機、あなたは了解可能でしょうか?
     私がこのニュースを初めて見たときには、さっぱり分かりませんでした。

     しかし、最近ある新書を読み、ひょっとしたらこれが動機か、と思えるエピソードを知りました。

    イタリア 24の都市の物語 (光文社新書)イタリア 24の都市の物語 (光文社新書)
    (2010/12/16)
    池上英洋

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     時は12世紀から13世紀にかけてのイタリア。アッシジという町で、裕福な家に生まれたフランチェスコは、ある時、「どこへ行くのか」と問いかける不思議な声を聴きます。
     その瞬間から別人のようになった彼は、自分が持つ物をすべて貧者へと分け与え、自分の物がなくなってからは、実家にあった物を勝手に持ち出しては配り始めました。
     さすがに怒った父親から、今まで私がやったものを返せと言われた彼は、着ていた物をすべて脱ぎ捨て、父親に渡したというのです。
     後に彼は、各地を放浪しながら神の教えを広め続け、カトリックのフランシスコ修道会を創設し、聖フランチェスコと呼ばれるようになりました。

     親から買ってもらった服を、脱いで親へと返す。東北新幹線の彼と、まったく同じ発想です。
     中世イタリアと、現代日本の東北新幹線車内で、まさか(迷惑にも)同じ発想をしてしまう人がいるとは。

     ところで、東北新幹線の彼がどうなったのかは、続報がないため分かりません。わいせつの故意がなかった以上、公然わいせつ罪は成立しないと考えられます。そうすると、厳重注意を受けて家に帰されたかもしれません。
     実家の物を持ち出したりしてなければよいのですが。
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